Vivado AI Assistantの仕組みを考える
― MCP、Agent Skills、Knowledge Baseで「Vivadoが裏側に回る」
前回の記事では、Vivado AI AssistantのWorkshopに参加し、実際にVS CodeからAIを使ってVivadoを操作した第一印象を書きました。
私が特に驚いたのは、
「Vivadoの中にAIが入った」というより、「AIからVivadoを操作する」
という構造になっていたことです。
今回はもう少し技術的に、Workshopで出てきた
MCP、Agent Skills、Knowledge Base、Vivado
の関係を整理してみます。
まだWorkshopで触った範囲での理解なので、細かな実装については今後変わる可能性があります。ただ、AMDがどの方向を目指しているのかは、かなり見えてきたように思います。

AIとVivadoの間をMCPでつなぐ
まず重要なのがMCPです。
MCP(Model Context Protocol)は、生成AIから外部のツールや情報へアクセスするための仕組みです。
今回のWorkshopでは、VS Code上のAIからMCP Serverを経由してVivado側の機能を呼び出していました。
イメージとしては、
開発者 → AI → MCP → Vivado
です。
開発者がVivadoのGUIを直接操作するのではなく、
「Vivadoを起動して」
「この設計を解析して」
「レポートを確認して」
とAIに指示し、AIが必要なVivadoの機能を呼び出します。
ここが従来との大きな違いだと思います。
MCPだけではFPGA開発はできない
ただし、MCPにつながったからといって、AIが突然FPGAの専門家になるわけではありません。
これはかなり重要です。
MCPは、言ってみればAIにVivadoを操作するための「手」を与える仕組みです。
しかし、
「何を調べればいいのか」
「どんな順番で処理すればいいのか」
「Vivadoの結果をどう判断するのか」
といったノウハウは別に必要です。
そこで出てくるのが、Agent SkillsやKnowledge Baseです。
Agent Skillsは「仕事のやり方」をAIに与える
Workshopを見ていて興味深かったのがAgent Skillsです。
FPGA開発では単にコマンドを実行できればいいわけではありません。
例えばタイミングに問題があった場合でも、
レポートを取得する
↓
問題のあるパスを調べる
↓
原因を分類する
↓
必要な情報を追加で取得する
↓
修正方法を検討する
というような手順があります。
こうした**「この仕事なら、こう進める」**という手順やノウハウをAI側へ与えるのが、Agent Skillsの重要な役割だと理解しました。
今回のWorkshopでも、AMD側からあらかじめ用意された手順やサンプルを使ってLabを進めました。
つまり現時点では、
AIに何でも自由にやらせているわけではない
というところもポイントだと思います。
ある程度きちんとした手順を与え、その範囲でAIにVivadoを操作させる。
この方がFPGA開発では現実的です。
Knowledge Baseは「調べる場所」
もう一つがKnowledge Baseです。
Vivadoを使っていると、AMDのドキュメントを調べる機会が非常に多くあります。
User Guide、Product Guide、Answer Recordなど、必要な情報は大量にあります。
これまではエンジニア自身が検索して、
「このWarningは何だ?」
「このIPの設定は?」
「この制約の書き方は?」
と資料を探していました。
Knowledge BaseをAIから利用できれば、この「資料を探して読む」という作業にもAIを使えます。
つまりAIには、
Vivadoを操作する能力だけでなく、必要な技術情報を調べる能力も持たせる
ということになります。
4つを並べると見えやすい
私なりに今回の構造を整理すると、こんな感じです。
| 要素 | 役割 |
|---|---|
| AI / VS Code | 人間の自然言語を理解し、何をするか考える |
| MCP | AIとVivadoなどのツールを接続する |
| Agent Skills | FPGA開発をどう進めるかという手順・ノウハウ |
| Knowledge Base | VivadoやAMD製品について調べるための技術情報 |
| Vivado | 合成・Implementation・解析などを実際に実行する |
これらが組み合わさることで、
「自然言語でFPGA開発を進める」
という環境が作られようとしているように見えます。
だから「Vivadoが裏側に回る」と感じた
ここまで整理すると、前回書いた「Vivadoが裏側に回る」という感覚も説明できます。
従来は、人間がVivadoのGUIを見ながら、
「次はここをクリック」
「次はこのレポート」
「このWarningをGoogleで検索」
と操作していました。
しかしAI中心の開発になると、人間が見るインターフェースはVS CodeなどのAI環境になります。
人間は、
「この設計を合成して、問題点を調べて」
と指示する。
AIは必要に応じてKnowledge Baseを調べ、Agent Skillsなどを使って進め方を決め、MCP経由でVivadoを操作する。
そしてVivadoが出した大量の情報を整理して、人間に必要なところだけ返す。
そうなるとVivadoは非常に重要なツールでありながら、人間から直接見える時間は減っていきます。
これが私がWorkshopで感じた、
「Vivadoが裏側に回る」
という意味です。
まだ「自然言語だけで何でもできる」わけではない
ここは誤解しないようにしておきたいところです。
今回触ったものだけで、
「もうFPGA開発は全部自然言語だけでできます」
と言える段階ではないと思います。
今回のLabも、AMD側が用意した環境、ノウハウ、手順、サンプルの上で動かしています。
現実のFPGA案件には、もっと複雑な問題が大量にあります。
クロック構成、CDC、I/O規格、タイミング制約、IP、RTLの仕様、基板との接続など、プロジェクト固有の判断も必要です。
ただし、今回重要なのは、
その方向へ進むための仕組みが実際に動き始めている
ということだと思います。
単なるAIチャットではありません。
AIがドキュメントを調べ、開発手順を理解し、実際のEDAツールを操作する。
ここまで一つにつながってきました。
FPGA開発の「ノウハウ」の価値も変わりそう
そして、ここから先が個人的にはかなり面白いところです。
AIがVivadoを操作できるようになると、次に重要になるのは、
「AIにどういうFPGA開発のやり方を教えるか」
ではないでしょうか。
ベテランのFPGAエンジニアが持っている、
「このWarningならまずここを見る」
「タイミングが悪ければ、この順番で確認する」
「この構成なら、この制約を疑う」
といったノウハウがあります。
これまで、こうしたものは人間の頭の中にかなり残っていました。
それをAgent Skillsなどの形でAIが利用できるようになれば、FPGA開発ノウハウそのものが再利用可能な資産になる可能性があります。
これは単なるVivadoの操作自動化より、さらに大きな変化かもしれません。
FPGA開発はどこまで自然言語になるのか
今回のWorkshopを見て、
「VivadoにAIが搭載される」
という最初のイメージから、かなり考えが変わりました。
これからのFPGA開発では、
自然言語 → AI → 開発ノウハウ → MCP → Vivado
という流れが普通になっていく可能性があります。
そうなればVivadoはなくなるのではなく、むしろ今まで以上に重要になります。
ただし、人間がVivadoを直接操作する必要は減っていく。
Vivadoは表舞台から裏側へ回り、AIがFPGA開発の新しいフロントエンドになる。
今回のWorkshopを体験して、そんな未来が少し見えた気がしました。
次回はさらに一歩進めて、
「では、FPGAの知識がない人でもAIを使えばFPGAを開発できるのか?」
そして、FPGAエンジニアの仕事はどう変わるのか?
このあたりを考えてみたいと思います。
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