【番外編】AMDは「フィジカルAI」に本気だと感じた ― Embedded Computing Summitで見えた戦略
AMD Embedded Computing Summitに参加して、個々の製品や新機能ももちろん面白かったのですが、それ以上に強く感じたことがあります。
それは、
「AMDはフィジカルAIの世界を本気で取りに来ているのではないか」
ということです。
今回の発表を一つずつ見るだけでは、CPU、GPU、NPU、FPGA、そして開発ツールの新製品や新機能の紹介に見えます。
しかし、全体を通して見ると、かなり違った景色が見えてきました。
フィジカルAIにはGPUだけでは解決しにくい問題がある
現在の生成AIでは、GPUが非常に大きな役割を果たしています。
しかし、AIがロボット、自動車、ドローン、産業機器などの現実世界=Physical Worldへ出ていくと、クラウド上の生成AIとは違った問題が出てきます。
その代表が、
消費電力と即時応答性です。
ロボットが何かを検出してから、数秒後に判断していたのでは使えません。
センサーから大量のデータを取り込み、処理し、判断して、モーターなどを制御する。その一連の処理をリアルタイムに、しかも限られた電力の中で実行する必要があります。
ここはGPUだけで何でも処理すればよい、という世界ではありません。
そして今回AMDが示してきたのは、まさにそこに対する一つの回答だったように感じました。
CPU、GPU、NPU、FPGAを全部持っている
AMDにはCPUがあります。
GPUもあります。
さらにNPUもあります。
そしてXilinxを買収したことで、FPGA/Adaptive SoCも持っています。
今回の発表では、これらをバラバラに売るというより、
「処理に応じて最適なデバイスを組み合わせる」
という考え方がかなり強く出ていました。
例えばAIの推論や画像処理ならGPUやNPU。
複雑なソフトウェア処理ならCPU。
一方で、センサーインターフェースや大量の並列処理、低遅延処理、決められた時間内に確実に応答する必要がある処理にはFPGA/Adaptive SoCを使う。
実際、会場では自動車、超音波診断装置、ドローン、AIインフラなどについて、複数のAMDデバイスを組み合わせたシステム構成が紹介されていました。
ここが非常に面白かったところです。
「AIならGPU」ではなく、「システム全体をどう作るか」までAMDが踏み込んできた。
そんな印象を受けました。

デバイスだけではなかった
そして、今回さらに強く感じたのが、AMDがデバイスだけで勝負しようとしていないことです。
ROCmなどのソフトウェア環境があり、Ryzen AIなどのNPU向け環境があり、FPGAについてもVivadoがあります。
さらに今回、Vivadoでは生成AIを利用した開発環境が大きく進もうとしていました。
自然言語からBlock Designを作る。
シミュレーションを実行する。
エラーを解析する。
RTLを修正する。
再びシミュレーションして確認する。
タイミング違反を解析する。
さらにはハードウェアデバッグまで支援する。
昨日参加したVivado AI Assistant Workshopと今回の発表を合わせて見ると、AMDが目指している方向がかなり見えてきた気がします。
CPU、GPU、NPU、FPGAだけでなく、それらを使うためのソフトウェアやAI開発環境まで含めて提供する。
これはかなり大きな戦略だと思います。

AIが進歩するほどAMDが有利になるポジション
そして個人的に一番興味深かったのがここです。
生成AIがこれからどこまで進歩するのかは、正直なところ誰にも分からないと思います。
フィジカルAIについても同じです。
5年後、10年後にロボットや自動運転、産業機器がどうなっているのか。現在の延長線上だけでは予想できない可能性があります。
だからこそAMDは、
「どの方式が勝つかを一つに決める」のではなく、必要になりそうな計算資源を広く押さえる
というポジションを取ったように見えました。
CPUが必要ならAMD。
GPUが必要ならAMD。
NPUが必要ならAMD。
リアルタイム性や低消費電力、特殊なI/Oが必要ならFPGA/Adaptive SoC。
そして、それらを開発するソフトウェア環境にもAIを入れていく。
つまり、
AIそのものが成長すればするほど、AMDの持っている選択肢の価値も高くなる。
そんなポジションを取りに来たように感じます。

FPGAエンジニアとしても面白い時代になってきた
もちろん、この戦略が成功するかどうかはまだ分かりません。
フィジカルAIそのものがどの方向へ成長するのかも分かりませんし、NVIDIAをはじめ他社も黙っているはずがありません。
ただ、今回の発表によって一つの方向が示されたことは間違いないと思います。
そしてFPGAという視点から見ると、これはかなり面白い変化です。
生成AIが発展するとFPGAが不要になるのではなく、むしろフィジカルAIが広がることで、
低消費電力、低遅延、リアルタイム性、柔軟なI/O
といったFPGAが得意としてきた領域が、改めて重要になる可能性があります。
しかもFPGAそのものの開発にも生成AIが入ってきます。
これまでFPGAの弱点だった「開発が難しい」「時間がかかる」という部分まで改善されていけば、FPGAを使える場所そのものが広がるかもしれません。
今回の二日間を通して、
「AMDはかなり面白いポジションを取りに来たな」
というのが、私の一番大きな感想でした。
フィジカルAIがどこへ向かうのか。
FPGAの役割がどう変わるのか。
そして他の半導体メーカーが、このAMDの動きに対してどう動いてくるのか。
まだ答えは分かりません。
だからこそ、これからが面白そうです。
Vivado AI Assistant (AMD Embedded Computing Summit) ブログ
